2026.01.22 Update.

HMS Brand Picks 「らしさで選ぶ、時計ブランド」 #04 – Excelsior Park(エクセルシオパーク)

腕時計の世界には、
「名前は知らなくても、その中身には一度は触れている」
そんなブランドが存在します。

Excelsior Park(エクセルシオパーク)は、
私たちバイヤーにとって、まさにその代表例でした。

1866年、スイス・サン・ティミエで生まれたこのブランドは、
表舞台で語られることよりも、
機構そのものの信頼性で選ばれてきた存在です。

いま改めてこの名前を取り上げたいと思った理由は、
単なる復刻ブームではありません。
仕入れや選定の現場で改めて向き合うほどに、
このブランドが積み重ねてきた
「測ること」への執念と、美学の輪郭が、
いまの感覚にもきちんと重なってきたからです。

目次

クロノグラフの町、サン・ティミエから

スイス時計史の“裏側”を支えてきた土地

スイス・ベルン州ジュラ地方にあるサン・ティミエは、
ロレックスやパテックのような華やかな名前で語られる町ではありません。

しかし時計史を深く辿っていくと、
この町が クロノグラフとストップウォッチの発展において極めて重要な場所であったことが分かります。

19世紀後半から20世紀初頭にかけて、
スポーツ、軍事、産業の現場では
「正確に時間を測ること」が急速に求められるようになりました。

サン・ティミエは、
その需要に真正面から応え続けた町です。

Excelsior Parkは1866年、
まさにこの環境の中で生まれました。

Excelsior Park(エクセルシオパーク) クロノグラフの町、サン・ティミエから - スイス時計史の“裏側”を支えてきた土地

“Jeanneret(ジャネレ)”から始まった物語

Excelsior Parkの起源を辿ると、
必ず行き着く名前があります。
Jules-Frédéric Jeanneret(ジュール・フレデリック・ジャネレ)。

19世紀後半のスイス・サン・ティミエ。
この地で Jeanneret は、
クロノグラフと計時装置を専門とする工房を立ち上げました。

1885年、
彼の工房はアントワープ万国博覧会で銀メダルを受賞。
この時点ですでに、
Jeanneret の名は
「正確に測るための時計を作る技術者」として
国際的な評価を得ていました。

この頃に登録された
「Pigeon(鳩)」の商標や、
後にExcelsior Parkの象徴となる
J字型ブリッジ構造は、
この工房が早い段階から
外装や流行ではなく、
機構そのものに思想と個性を込めていたことを示しています。

Excelsior Parkの歴史は、
複数の工房が絡み合う複雑な物語ではありません。

Jules-Frédéric Jeanneret が築いた
「計時機構に特化した技術の積み重ね」
──その一本の流れが、
やがて Excelsior Park という名前へと結実していくのです。

「測る」ための時計しか作らなかったブランド

クロノグラフ専門メーカーという覚悟

19世紀末から20世紀初頭にかけて、
多くの時計メーカーは
懐中時計や3針時計を主軸に事業を広げていました。

その中で、この系譜のJeanneret家は
クロノグラフとストップウォッチに特化する
という、極めて珍しい選択をします。

1900年に製作された
13リーニュのクロノグラフは、
腕時計型クロノグラフへの重要な一歩とされています。

これは「流行を先取りした」というより、
測るという行為が、
いずれ腕の上に移行することを見据えた判断
だったと見る方が自然でしょう。

特許と実用性が物語る「道具としての思想」

1891年、
Jeanneret家は、
後にクロノグラフ用ムーブメントの名門メーカー
Lémania(レマニア)を創設する
Alfred Lugrin(アルフレッド・ルグラン) と協力し、
クロノグラフに関するスイス特許を取得します。

Lugrinは、
完成品の腕時計ではなく、
計時機構そのものを専門に設計する技術者であり、
この協業は、
Excelsior Parkが初期から
“測るための機構”を重視していたことを示す象徴的な出来事でした。

この特許は、
装飾的な改良ではありません。
操作性と信頼性を高めるための、
極めて実用的な技術的発明でした。

さらに1921年には、
スタート操作とは独立して停止できる
革新的なクロノグラフ機構を開発。

これらの特許に共通するのは、
「複雑さを誇る」ための発明ではない、という点です。

・確実に動く
・確実に止まる
・何度使っても狂いにくい

現場で使われることを前提とした、
純粋に “道具としての改良” でした。

Excelsior Park(エクセルシオパーク) 特許と実用性が物語る「道具としての思想」

表に出ない名声

有名ブランドが“中身”に選んだExcelsior Park

Excelsior Parkが
時計好きの間で特別な存在とされる理由は、
完成品の派手さではありません。

名門ブランドのクロノグラフを、
中身から支えてきた歴史にあります。

1930年代以降、
Excelsior Parkは
自社開発クロノグラフキャリバーを
外部ブランドへ供給する立場になります。

Zenith(ゼニス)が最初に選んだクロノグラフ

1938年、
すでにクロノメーターで高い評価を確立していた
Zenith(ゼニス) は、
初の本格的な腕時計クロノグラフを開発するにあたり、
Excelsior Park製 EP42 キャリバーを採用しました。

注目すべきはその後です。

Zenithは、
約30年にわたってExcelsior Parkのクロノグラフムーブメントを使い続けた
のです。

これは単なる外注ではありません。
自社で開発する選択肢があったにもかかわらず、
「信頼できる中身」として選び続けた
という事実です。

Excelsior Park(エクセルシオパーク) Zenith(ゼニス)が最初に選んだクロノグラフ

Gallet、Girard-Perregauxも頼った理由

アメリカ市場で強い影響力を持った Gallet、
そして Girard-Perregaux。

両者もまた、
クロノグラフ分野において
Excelsior Parkを選びました。

理由は明快です。

・安定して供給できる
・過酷な使用に耐える
・修理・整備を前提に設計されている

「売れる時計」ではなく、
「使われ続ける時計」を作るための中身。
それがExcelsior Parkだったのです。

Excelsior Park(エクセルシオパーク) Gallet、Girard-Perregauxも頼った理由

軍用・航空・スポーツへ

プロフェッショナルが求めたクロノグラフ

1945年、
Excelsior Parkは極めて特異なクロノグラフを発表します。

24時間で一周する矢印針を備え、
無線時報に合わせて秒単位で同期できる機構。

このモデルは後に
「Sextant(セクスタント)」 と呼ばれ、
ZenithやGalletからも販売されました。

軍用採用が示した“壊れなさ”

耐衝撃機構を備えたこのクロノグラフは、
軍用パラシュート部隊にも推奨されます。

これは広告ではなく、
実運用に耐えると判断された結果でした。

競技場、航空、軍事。
Excelsior Parkのクロノグラフは、
「正確に止まること」が
何より重要な場所で使われ続けていたのです。

Excelsior Park(エクセルシオパーク) 軍用採用が示した“壊れなさ”

静かな終焉、そして長い沈黙

クオーツショックが奪ったもの

1960年代後半から1970年代。
クオーツショックは
多くの機械式メーカーの運命を変えました。

Excelsior Parkも例外ではありません。

1980年代初頭、
ブランドは静かに姿を消します。

1986年には
ドイツの工具メーカーによる短期間の復活がありましたが、
それは本流とは言えないものでした。

だからこそ、
オリジナルのExcelsior Park製クロノグラフは
いまなお
「知っている人だけが評価する存在」
であり続けています。

2022年、再び血が巡る

なぜ今、Excelsior Parkだったのか

2022年、
Excelsior Parkは本格的な復活を果たします。

中心にいたのは、
Nivada Grenchen(ニバダ・グレンヒェン)を再生させた
ギヨーム・ライデ氏。

彼がExcelsior Parkを選んだ理由は明確でした。

・クロノグラフ専門という揺るがない軸
・Zenithをはじめとする名門が選び続けた実績
・現代に翻訳できる、十分な歴史的厚み

復活後のExcelsior Parkは、
懐かしさを売るブランドではありません。

「クロノグラフとは何か」
「なぜ測る必要があったのか」

その問いを、
現代の腕時計として静かに提示しています。

Excelsior Park(エクセルシオパーク) 2022年、再び血が巡る

EP95 / BI COMPAX / EP884 に見る“再解釈”

復活後のExcelsior Parkが目指したもの

2020年代に復活したExcelsior Parkは、
過去の名作をそのまま再現する道を選びませんでした。

選んだのは、
「形」ではなく、「思想」を現代に翻訳すること。

その姿勢は、
EP95、BI COMPAX、EP884
──3つのモデルに、はっきりとした役割の違いとして表れています。

EP95 ― クロノグラフ専門ブランドが、正面から作った「王道」

Excelsior Park(エクセルシオパーク) EP95 ― クロノグラフ専門ブランドが、正面から作った「王道」

EP95は、
Excelsior Parkというブランドを初めて知る人にとって、
最も分かりやすく、そして最も“らしい”一本です。

1950年代のクロノグラフを思わせる、
白を基調とした高い視認性のダイヤル。
そこに配されたテレメーターとタキメータースケールは、
単なる装飾ではなく、
「測るための時計」であった時代の記号そのもの。

Excelsior Parkがかつて歩んできた歴史を考えれば、
この選択はごく自然です。

彼らは、
クロノグラフを“雰囲気のある複雑機構”としてではなく、
現場で使われる計測器として作ってきたブランドでした。

なぜ手巻きクロノグラフなのか

EP95に自動巻きを採用しなかった点も、象徴的です。

搭載されるのは、
スイス製の Sellita SW510 をベースとした
手巻きクロノグラフムーブメント。

ここで重要なのは、
「最新かどうか」ではありません。

・構造が分かりやすい
・整備性が高い
・クロノグラフとしての信頼性が確立されている

こうした要素を優先した結果が、
手巻きクロノグラフという選択です。

Excelsior Parkにとって、
クロノグラフとは
「放っておいても便利な機構」ではなく、
使う人が向き合い、操作する道具。

EP95は、
ブランドの原点にあるその価値観を、
現代の腕時計として
もっともストレートに提示したモデルだと言えます。

BI COMPAX ― 1950年代クロノグラフを、“今の腕”で成立させる

BI COMPAXは、
EP95ほどストイックではなく、
かといって安易にモダンへ寄せたわけでもありません。

モチーフは、
1950年代に確立された
ツーカウンター・クロノグラフ(バイ・コンパックス)。

このレイアウトは、
視認性と操作性のバランスに優れ、
当時のクロノグラフにおける“完成形”のひとつでした。

BI COMPAXが巧みなのは、
その完成形をそのまま再現するのではなく、

・現代の装着感に合うケースバランス
・落ち着いたトーンのダイヤル配色
・日常使用を前提とした堅牢性

ヴィンテージの文脈を保ったまま、
現代の生活に無理なく落とし込んでいる点です。

なぜLanderon L70Mなのか

心臓部には、
Landeron製の手巻きクロノグラフ
キャリバー L70M を採用。

Landeronは、
Excelsior Parkと同時代に
クロノグラフムーブメントを供給していたメーカーであり、
歴史的な文脈としても非常に相性の良い存在です。

派手な選択ではありません。
しかし、
「分かっている人ほど納得する」
極めてExcelsior Parkらしい判断。

BI COMPAXは、
クロノグラフが好きでありながら、
主張しすぎる一本を求めていない人に
静かにフィットするモデルです。

EP884 ― 知っている人ほど惹かれる、もうひとつの答え

Excelsior Park(エクセルシオパーク) EP884 ― 知っている人ほど惹かれる、もうひとつの答え

一方のEP884は、
この3本の中で、
もっとも静かな存在かもしれません。

クロノグラフではなく、
あえて 3針・手巻き。

この選択だけで、
「このモデルが誰に向けられているのか」は
はっきりと伝わってきます。

“884”という数字に込められた意味

EP884の“884”は、
ブランド発祥の地である
サン・ティミエ(St-Imier)が
西暦884年に成立したことに由来します。

つまりこのモデルは、
特定の名作を復刻するための時計ではありません。

Excelsior Parkという土地と歴史そのものへのオマージュ
として作られています。

なぜクロノグラフを作らなかったのか

ムーブメントには、
Landeron製 手巻きキャリバー L21 を採用。

ここで注目すべきは、
Landeronを使いながら
あえてクロノグラフにしなかったことです。

これは、
「何でもかんでもクロノグラフにしない」
という明確な意思表示。

EP884は、
・ダイヤルの余白
・手巻きならではの薄さ
・時間と静かに向き合う感覚

そうした要素を大切にした、
“語らない時計”です。

派手さはありません。
しかし、
Excelsior Parkの歴史を知る人ほど、
この選択に深く納得するはずです。

EP95 / BI COMPAX / EP884 ― どれが正解、ではない

この3本は、
優劣で語る関係ではありません。

EP95 → クロノグラフ専門ブランドの原点を、正面から味わいたい人へ
BI COMPAX → ヴィンテージの文脈を、現代の腕で自然に楽しみたい人へ
EP884 → ブランドの背景や思想を、静かに受け取りたい人へ

どれも、
Excelsior Parkが“何者だったのか”を
異なる角度から教えてくれる存在です。

復活ブランドでありながら、
ここまで明確に役割の異なるモデルを用意していること。

そこに私たちは、
「売るため」ではなく、「正しく戻すため」に復活したブランドの本気
を感じています。

Nivada Grenchen復活との共通思想

「名前を売る」より、「中身を正しく戻す」

Excelsior Parkの復活を語るとき、
必ず名前が挙がるのが Nivada Grenchen です。

両ブランドは、
同じ人物——ギヨーム・ライデ氏の関与によって
再び動き出しました。

しかし重要なのは、
“誰が関わったか”ではありません。

共通しているのは、
復活に対する考え方そのものです。

ヴィンテージを「神話」にしなかった

Nivada Grenchenも、Excelsior Parkも、
復活にあたって過去を過剰に神格化しませんでした。

・伝説だった
・希少だった
・高騰している

そうした文脈は、あくまで結果であって、
出発点には置いていない。

代わりに据えられたのは、

なぜ当時、この時計は“使われていたのか”

という問いです。

Excelsior Park(エクセルシオパーク) ヴィンテージを「神話」にしなかった

再現ではなく、「再構築」という選択

両ブランドの復活モデルに共通しているのは、
完全復刻を目的にしていないこと。

ケースサイズ、装着感、実用性。
現代の生活に合わない要素は、
あえてそのままにはしていません。

それは裏を返せば、

当時の設計思想には、
今も通用する「芯」があった

と信じているからこその態度です。

Nivada Grenchenが
ダイバーズやクロノグラフを
“道具としての時計”として再定義したように、

Excelsior Parkもまた、
クロノグラフを
“雰囲気のいい複雑時計”ではなく
測るための機械として現代に戻しています。

市場ではなく、文脈を基準にする

近年の復刻ブームでは、
市場の反応が先に立つケースも少なくありません。

・何が売れるか
・どの年代が評価されているか

しかし、
Nivada GrenchenとExcelsior Parkの復活は、
そうした外部要因よりも、

・そのブランドは、何を得意としていたのか
・何を作るために存在していたのか

という内側の文脈を基準にしています。

だからこそ、
派手さはなくとも、
時計好きの視線が自然と集まる。

Excelsior Park(エクセルシオパーク) 市場ではなく、文脈を基準にする

「知っている人ほど納得する」復活

この2ブランドの復活は、
誰にでも分かりやすい成功物語ではありません。

むしろ、

・時計の歴史を少し知っている人
・クロノグラフやツールウォッチが好きな人
・ムーブメントの来歴に惹かれる人

そうした層に、
じわじわと効いてくる復活です。

Excelsior Parkが
クロノグラフ専門メーカーとして再び名乗ること。

Nivada Grenchenが
かつての名作を、過剰に飾らず戻してくること。

この姿勢そのものが、
両ブランドに共通する最大の思想だと思います。

「らしさ」で選ぶ、ということ

HMS Brand Picks が掲げる
「らしさで選ぶ、時計ブランド」。

Excelsior ParkとNivada Grenchenは、
その言葉を
最も誠実に体現している復活ブランドかもしれません。

流行をなぞらず、
価格を煽らず、
ただ、自分たちが何者だったのかを
静かに思い出す。

その姿勢に共感できるなら、
この2つの名前は、
きっと同じ棚に並ぶはずです。

※本記事は、HºM'S" WatchStore バイヤーチームによる読みものコンテンツです。
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