#Peopleそれぞれの時間。

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KURONO SHINGO

sazaré - Product designer

日本の実直なものづくりを原点とし、「日本製」に拘り抜いた腕時計ブランド「sazaré」のプロダクトデザインを手掛ける、SHINGO KURONO氏にブランド初のオートマティックモデル「SK02」のリリースに合わせて、制作の裏側や日本のモノづくりに対する思いなどを伺いました。

(HºM'S" WatchStore)
まずはじめに、sazaréを作った背景を教えて頂けますか?

(SHINGO)
販売元の当時ディレクターだった佐藤佳史さんから「日本製の時計を作りたい」とオファーいただき始まったプロジェクトです。
工場を探すところから始めて本当に2人で東奔西走というか、いろんな場所に行きました。
2016年のはじめにに動き始めて、SK01をリリースできたのが2018年の冬だったので、約3年かかりました。
苦労した分、試作が出来上がった時の感動は大きくて、まだムーブメントの入っていない動かない試作を毎日つけていました。笑
自分としても独立後初めてのプロダクト案件だったので、思い入れも強く、素晴らしいプロジェクトに携われること、続けさせてもらえていることをありがたく思っています。
普通のブランドではあり得ない製造スケジュールなので、ゆっくり地道にいいものを作らせてもらえる環境には感謝しかないです。

(HºM'S" WatchStore)
今回ブランド初のオートマティックモデル「SK02」をリリースされましたが、オートマチックモデルの構想は元々ありましたか?

(SHINGO)
SK01を作っている時からいずれは自動巻きをやりたいね、という話はしていました。
自動巻きは腕時計のムーブメントとしてクラシックですし、自動巻時計を作ってこそ時計ブランドとしてのsazaréが確立できるのかなと思っていました。
電池を使わず、身につけていることでゼンマイが巻かれ滑らかに回り続けていく。
1秒という単位としての時間ではなく、時の流れや動きという感覚が少し意識化されるようなところがある気がして、身につけていたいと思わせるようなところがあります。

(HºM'S" WatchStore)
現行クオーツモデル「SK01」が幅38mmに対し「SK02」が幅34mmと、なぜ大幅にサイズをダウンさせたのでしょうか?

(SHINGO)
単純にリクエストが多かったのと、自分が身につけたいサイズ感、というのが本音です。笑
ジェンダーレスに身につけられるサイズでもあると思いますし、時計というと明確に男性用、女性用と分かれることが多いですが、そこを明確に分けずに提案したかった。
またビンテージウォッチはサイズが小さいものが多いですし、これから時間を積み重ねていき、ビンテージになっていってほしいという想いもあります。

(HºM'S" WatchStore)
「SK02」にて、ホワイトダイアルマット仕上げケースやブラックダイヤルマット仕上げケースを作らないのはなぜなのでしょうか?

(SHINGO)
今の時代、当たり前にいろんな選択肢が身の回りにあります。
そんな中で個人的には、これしかやらないというスタンスでものづくりをしているブランドにいい印象を持つことが多い。
正直1種類だけというのは販売戦略としては勇気がいることだと思います。
それでも現代のスタンダードを提案したかった。そういう意味でいえばやはり艶のあるシルバーかなと思い、1種類のみの展開としました。
また、今回のSK02の形状は曲面と直線を組み合わせたデザイン処理をしています。
ガラス部分の曲面に対して、ベゼルは直線にカッティングしており、柔らかい光を作る曲面と、キレのいい光を作る直線の対比が、愛着と実直さの印象を作りだしている。
職人さんにひとつずつ丁寧に磨いてもらったその美しい仕上げを一番感じられるのは艶ありかなと思います。
これから定番として残っていくものとしてこの時計を手にしてもらえたら嬉しいです。

(HºM'S" WatchStore)
なるほど。そんなこだわりの詰まった「SK02」ですが、どんな人につけてもらいたいですか?

(SHINGO)
sazaréに興味を持ってくれている方はsazaréの背景にある職人への尊敬の眼差しや、年にいくつも作らず、いいものができた時にリリースするという態度に共感してくださっている方が多いのではないかと思います。
ガジェット的に消費するのではなく、これから生きていく時間を共に刻んでいきたいと思ってもらえる方に手に取っていただけたら嬉しいです。

(HºM'S" WatchStore)
今後sazaréから出そうと思っているプロダクトの構想はありますか?

(SHINGO)
時計以外にも、時を重ねていけるプロダクトを作っていけたらいいなと思っています。
時を測る道具としての時計に対して、もっと抽象的に「時を感じる」というものも作っていきたいと考えています。

(HºM'S" WatchStore)
「日本製」に拘ったというコンセプトで立ち上げた「sazaré」ですが、日本のモノづくりについてお聞かせください。

(SHINGO)
日本のものづくりについて語るなんてことはおこがましくてできませんが、率直な自分の気持ちとしては、今までいろんな工場にお邪魔させていただいて、毎回現場で作業する方々の技術や想いに感銘を受けています。
そして実際に手を動かして作ってくださっている方が楽しそうだったり、いいものを作ろうというプライドが最終的な製品にもその想いが染み込んでいくと思います。
いつもカメラを片手にお邪魔しているのですが、工場は片側採光の所が多く、いい光が入ってくるんですよね。
そんな美しい光の中で、黙々と作業されている背中を見ていると、あぁ、この人たちの時間の結晶でものができているんだな、と心を打たれます。
デザイナーって自分では何もできないんです。
線を描いてもそれを作ってくれる人がいないとなんにもならない。
だから謙虚さを忘れてはいけないし、提案するデザインに責任もたないといけない。
オフィスで篭っていると自分本位になってしまうこともあるので、工場で過ごす時間は僕にとってかけがえのないものになっています。
また、現場の方に作り方を聞いたり、お話することが単純に楽しいのと、直接お会いして、一緒に作り上げていく思いがないと発注者と受注者の関係だけで終わってしまう。
今回のSK02を製造する過程でも、「形状的に磨きの加工が難しすぎて困ってるよぉ」と言われて、「そこをなんとかお願いします...!」とお願いして。
みなさん優しいから最後の最後は頑張って素晴らしいものを作ってくれる。
今回製造をお願いしたのが長野県安曇野にある南安精工さん。製造管理や組み立て作業を行ってくれた加納さんが、組み立て専用の治具*をアルミの削り出しで制作してくれたものを見せて下さったのですが、アルミの削り出しの塊感が本当に綺麗でした。
製品だけでなく、治具自体の完成度もすごく高くて感激しました。
現場には本当の意味でのクリエイティブが詰まっています。
*治具:英語のJigの当て字。工作物を固定するとともに切削工具などの制御、案内をする装置。

(HºM'S" WatchStore)
良いものを作るということには、作るという行為だけでなく、人と人との繋がりがとても大切なんですね。勉強になります。
では、現在の活動に影響を受けた人やもの、出来事などはございますか?

(SHINGO)
日々いろんなところから影響を受けているし、影響を受けられるような状態でいることが大切だと思います。
街中を歩いていて見かけた看板がかっこいい、よく行く和食屋の刺身の並べ方が綺麗でうまそうだ、カフェの椅子の肘掛けの仕上げが美しいとか。
美術館で巨大な彫刻に圧倒されたり、本屋で装丁の綺麗な本を衝動買いしたり。
赤提灯の居酒屋のジョッキが凍っているのが幸せだ、旅先で泊まったホテルの壁の仕上げが素敵だ、とか。
それぞれの場所で感じる心地いいという感覚をどうデザインできるのか考えたり、普段目にするもの、触るものをデザインのフィルターを通して捉えようとしている、というかそれがクセのようになってしまっています。

(HºM'S" WatchStore)
クセになってる笑。四六時中影響を受け続けるアンテナみたいですね。
そんなデザインというものが生活の一部になっているSHINGOさんの生きる上での拘りなどがあれば教えて下さい。

(SHINGO)
いまだに徹夜して制作、みたいなこともしょっちゅうなのであまり美しい暮らしとは言えないですが、家具にせよ仕事道具にせよできるだけいいものを使う努力をしています。
拘って作られたものからは勉強になることが多いですし、自分の生活の一部になることで、日々そのディテールを学ぶ機会が増えて、デザインするものも「本物」と言われるものに近づいていくと信じています。
また、工場で使われなくなった道具をもらってきたり、自分が訪れた場所で見つけた印刷物や商品のパッケージなど、いいと思ったものは全て捨てずに取っておいています。
本や写真集などもいいと思ったものはできるだけ買っています。
実際に見たことがある、触ったことがあることが重要な経験値になっていくはずだし、デザインに悩んだ時、周りに置いてあるものや本棚を眺めていると、思いもよらないものがヒントになったりします。

(HºM'S" WatchStore)
小さいころから「絵が得意」や「何かの作ること」が好きだったんですか?デザイナーを志そうと思った経緯は?

(SHINGO)
小さい頃から絵が好きで、本当に毎日毎日絵を描いていました。
新聞の折込チラシの裏面が白いものを探しては絵を描いていたと思います。
絵を描いては親や祖父母に見せて、褒められてはそれが嬉しくて、また絵を描くという感じでした。
でもそんなある時、祖父から「隣の絵を真似て描いてるうちは一流じゃない」みたいなことを言われたんですよね。今思えば5歳くらいの子が頑張って描いたんだから褒めてよぉとも思いますが、そう言われた時に悔しくて、もっとうまくなりたい、模写以上のことがしたいと何かスイッチが入ったような記憶があります。
それからずっと絵を描くことや書道も好きで、将来は画家か書道家になりたいと思っていました。でも高校生くらいで、画家や書道家で生計を立てていくのって難しいんじゃないか?と思うようになり、それでデザイナーを目指すようになりました。デザイナーも正直イバラの道ですが。笑
また母親はアクセサリーや靴のデザインに携わっていたり祖母はいつも自分で服を作っていた。だから「作る」ことが比較的身近にあった。
そういう環境もあったのかなと思います。
少し長くなってしまうのですが、一般的に絵を描ける=デザインができると認識されることが多いですが、絵が描けるということは必要な技術ではあるけれど、デザインはもう少し奥行きがあるものだと思います。
いくつもパターンを作ってそこからいいものを選んだり、このブランドがアウトプットするものはこれが適切かどうか検証する能力や、素材に対する知識など、さまざまな要素が絡み合って最終的なものに帰着していく。
絵を描くことから始まって、ものに至るまでのその間の部分が本当の意味でのデザイン力であり、デザインの醍醐味なんだと思います。

(HºM'S" WatchStore)
最後になりますが、店舗には「しんごさんに憧れて!」という若いお客様が多数ご来店頂いています。そのファンの方にお伝えしたいことはありますか?デザイナーの卵の方に是非一言頂きたいです。

(SHINGO)
そんな稀有な方がいてくださるのか…という感じですが、本当であればとても嬉しいです。僕も先輩デザイナーに憧れて自分も同じ世界がみたいと思い田舎から出て来ました。(憧れのデザイナーに会ったら握手してもらっていました。笑)
僕もそうでしたが、デザイナーというとすごく特殊な職業のようなイメージがあると思います。でも本当はそうではなくて、今座っている椅子も、手に持っているスマホも、栓抜きも、全てどこかのデザイナーの手によって図面が描かれて、製作をしている工場があって、それを運搬する方がいて自分の身の回りに存在している。
そういう気持ちで身の回りを見つめ直すと「これはいいデザインだな」とか「ここをもう少しこうしたらもっとよくなるのに」という視点が生まれてくる。
そういったちょっとしたことに気づけるようになるかが大事だと思います。
僕たちは何か特別な何かを作っているのではなくて、使ってもらう人の生活の一部を作っているのだと思っています。

photo by Masako Takano

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Profile
KURONO SHINGO
1985年生まれ。2006年フランスへ渡りデザインを学び、帰国後は国内のデザイン事務所で経験を積み2015年に独立。アートディレクション、プロダクト、グラフィック、WEBデザイン、映像や写真など、デザイン全般に従事。

[Online Store] sazaré

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